100日先の天気、知りたくない?
本稿の目的:天気を予測することの難しさがどこにあるかを知る、それと同時にカオスとは何かを大雑把に知る
本稿の対象者:大学生、社会人一般 (カオスについて既にご存知の方には退屈な内容です。ちゃんとしたカオスのお話は別の記事に書きます)
導入
高校生の時、勇気を振り絞って好きな人を京都に遊びに誘った甘酸っぱい思い出がある。結果的には綿密な計画もグダグダになるし、バスの券は落とすし汗びっしょりになるしでヒジョーにかっこ悪かったのだが、そんな話はどうでもいい。誘ってから気になっていたことの一つが、当日の天気である。高校生の私は賢いので、てるてる坊主などというティッシュの無駄遣いはせず、テレビの天気予報を食い入るように見ていた。しかし、天気予報とはどこを見ても1週間程度しか載っていない。何故だ。私は当日の天気が知りたいのに〜。
keyword: 天気予報、決定論的、カオス、初期値鋭敏性
100日先の天気は決まっている、しかし知ることはできない。
100日先の天気はなぜ天気予報に載っていないのか。それは、知ることができないからである。もっと言うと、「100日先の天気は決まっているが、人間には知ることができない。」
なるほど、誰も知らないなら天気予報に載っていないのも当然だ。しかし、決まっているのに知ることができないとはどういうことだろう?ここで言う、「決まっている」とはどういうことだろうか?また、何故「決まっている」ものを知ることができないのだろうか。
決定論的、非決定論的とは
「100日先の天気は決まっているが、人間には知ることができない。」
ここで言う「決まっている」とは、「ある物体(例えばボールを斜めに投げるときを想像してもらいたい。)の初期条件(ボールの場合だと投げるときの投げるときの自分の場所、向き、速さ)を決めれば、その後の運動は運動方程式(なんか物理の式)によって完全に予測できる」ということを言う。まあなんとなく、斜めに投げたら放物線を描いて地面に落ちそうなもんである。そのボールに空気抵抗や回転を加えても、(手で計算できるかどうかはともかく)我々は完全にその後の運動を、原理的には予測できる。これを決定論的であるという。ところで、天気予報も決定論的であることが知られている。すなわち天気予報は現在の天気さえわかれば、あとは運動方程式にしたがって動いていくだけである。
逆に、「初期条件を与えても、その後の運動を原理的に予測できない」ものを非決定論的という。これは理系の学生が大好きな「量子力学」という物理の領域で顔を見せるのだが、これについてはまた今度。
初期値鋭敏性(バタフライエフェクト)
なるほど、天気というのは決定論的(今の天気が完全に分かればその後の天気は完全に予測できる)らしいから、100日先の天気というのは決まっているのだ。ならば後は運動方程式とやらをパソコンさんに計算させれば100日先と言わず、未来永劫の天気を計算してもらえばいいじゃないか。コンピュータはついに「あまたつ!」の仕事も奪ってしまったのだ。
しかし、そううまくは行かない。それは天気を予測するというのは、いわゆる「カオス」の一種であるからだ。カオスの定義はここではしないが、その特徴の一つに「初期値鋭敏性」というものがある。次のような話を聞いたことがある人がいるかも知れない。「赤道付近で蝶が起こした小さなそよ風が、成長してアメリカでハリケーンを起こす」という類のお話である。これはバタフライエフェクトといって、小さな初期条件の誤差が時間とともに急激に大きくなっていくという、カオスの特徴をよく顕したお話である。天気の予測に話を戻すと、我々はコンピュータで計算する際に初期条件を入力しなければならない。しかしコンピュータはある精度までしか計算できないので、通常では気にすることのないような極微のエラーを生じる。(例えば1.000001を1.000000として計算したり。)この極微のエラーが時間とともに大きな誤差を生じさせ、結果として長時間の予測を困難にするのである。これが、「人間には知ることができない」の意味するところである。
まとめ
「100日先の天気は決まっている、しかし知ることができない。」の意味するところは、「天気予報は決定論的なので100日先の天気は原理的には決まっているが、カオスの初期値鋭敏性という特徴により、ある程度の時間までしか計算できない」ということである。天気を予測するというのはこういう難しさがあるんですね。
今回は定義や定量的な話はしませんでしたが、カオスの定義やその判定(ポアンカレ断面)、定量性(リアプノフ指数)についてはストロガッツさんの「非線形ダイナミクスとカオス」などがおすすめです。
(これを読んだ人へ:よくわからない言葉遣いや、物理を知らない人にとって未定義の言葉、間違いがあれば修正するので教えていただけたら幸いです。今後見やすくなります。)
また、現在の天気予測の方法などに興味があれば、以下のReferenceを参考にしてください。
Reference
[1] ウェザーニュース
「気象予測とカオス」田中 博
「非線形ダイナミクスとカオス」S.H.Strogatz https://www.amazon.co.jp/ストロガッツ-非線形ダイナミクスとカオス-Steven-H-Strogatz/dp/4621085808